漢詩「梅香山居」(七言絶句)と漢詩「哭A先生」(七言律詩)

06_梅香山居_哭_A_先生_2020_02_12.png



●原文:

 梅香山居  玄齋 佐村 昌哉  大阪市

山 閒 風 起 暗 香 吹  獨 處 野 人 看 一 枝

醉 裏 雪 梅 春 信 早  殘 寒 較 減 到 黃 鸝


 哭A先生  玄齋 佐村 昌哉  大阪市

先 生 逝 去 突 如 知  皆 憶 溫 顏 雙 淚 垂

梅 信 漸 開 芳 樹 路  暗 愁 將 識 落 花 時

篇 章 獨 詠 唐 人 趣  談 論 相 娯 源 氏 姿

一 夜 苦 吟 無 盡 歎  多 年 囘 想 若 斯 悲


●書き下し文:

 題:「梅香(ばいかう) 山居(さんきよ)」

山閒(さんかん) 風(かぜ) 起(お)こりて暗香(あむかう) 吹(ふ)き
獨(ひと)り處(を)る野人(やじん) 一枝(いつし)を看(み)る

醉裏(すいり)の雪梅(せつばい) 春信(しゆんしん) 早(はや)く
殘寒(ざんかん) 較(やや) 減(げむ)じて黃鸝(くわうり) 到(いた)る


 題:「A先生(せんせい)を哭(こく)す」

先生(せんせい)の逝去(せいきよ) 突如(とつじよ)として知(し)り
皆(みな) 溫顏(をんがん)を憶(おも)ひて雙淚(さうるい) 垂(た)る

梅信(ばいしん) 漸(やうや)く開(ひら)く芳樹(はうじゆ)の路(みち)
暗愁(あむしう) 將(まさ)に識(し)らむとす落花(らくくわ)の時(とき)

篇章(へんしやう) 獨(ひと)り詠(ゑい)ず唐人(たうじん)の趣(おもむき)を
談論(だむろん) 相(あひ) 娯(たの)しむ源氏(ぐゑんじ)の姿(すがた)を

一夜(いちや)の苦吟(くぎむ) 盡(つ)くること無(な)き歎(なげ)き
多年(たねん) 囘想(くわいさう)すれば斯(か)くの若(ごと)く悲(かな)し

「閒」の新字体は「間」、「獨」の新字体は「独」、「處」の新字体は「処」、
「醉」の新字体は「酔」、「殘」の新字体は「残」、「黃」の新字体は「黄」、
「溫」の新字体は「温」、「顏」の新字体は「顔」、「雙」の新字体は「双」、
「淚」の新字体は「涙」、「將」の新字体は「将」、「樂」の新字体は「楽」、
「盡」の新字体は「尽」、「囘」の新字体は「回」
「香(かう)」の新仮名遣いは「こう」
「暗(あむ)」の新仮名遣いは「あん」
「處(を)る」の新仮名遣いは「處(お)る」
「減(げむ)じて」の新仮名遣いは「減(げん)じて」
「黃(くわう)」の新仮名遣いは「こう」
「溫(をん)」の新仮名遣いは「おん」
「憶(おも)ひて」の新仮名遣いは「憶(おも)いて」
「雙(さう)」の新仮名遣いは「そう」
「漸(やうや)く」の新仮名遣いは「漸(ようや)く」
「芳(はう)」の新仮名遣いは「ほう」
「愁(しう)」の新仮名遣いは「しゆう(小書き文字を使うと『しゅう』)」
「識(し)らむ」の新仮名遣いは「識(し)らん」
「落花(らくくわ)」の新仮名遣いは「らつか(小書き文字を使うと『らっか』)」
「章(しやう)」の新仮名遣いは「しよう(小書き文字を使うと『しょう』)」
「詠(ゑい)ず」の新仮名遣いは「詠(えい)ず」
「唐(たう)」の新仮名遣いは「とう」
「談(だむ)」の新仮名遣いは「だん」
「相(あひ)」の新仮名遣いは「あい」
「源(ぐゑん)」の新仮名遣いは「げん」
「吟(ぎむ)」の新仮名遣いは「ぎん」
「囘(くわい)」の新仮名遣いは「かい」
「想(さう)」の新仮名遣いは「そう」


●現代語訳:

 題:「梅の香りがする山中の住居を漢詩に詠みました」

 山の間に風が新しく生じて、どこからともなく漂って来る良い香りを吹いて、
 独り住まいをしている田舎者が、一本の(梅の)枝を眺めていました。

 酒に酔っ払った状態の時に、雪のように白い梅の花が咲いて、春の便りが早く着いて、
 寒(かん)が明けても残る寒さが稍(やや)少なくなって、鶯(うぐいす)がやって来ていました。


 題:「A先生の死を悲しんで泣く様子を、漢詩に詠みました」

 先生が亡くなられたのを不意に知り、
 皆は先生の優しい顔付きを思い出して、両眼から溢れ出る涙が頬を伝って流れていました。

 梅の花の咲き始めた便りは、次第に花の咲いた木々の道を開いて、
 心を暗くする悲しい物思いは、今まさに花が散り落ちる時を知ろうとしていました。

 詩文の編と章を(先生が)一人で詠んだのは、唐(とう)の時代の人の面白みであり、
 議論を(私と先生が)お互いに楽しんだのは、『源氏物語(げんじものがたり)』の主人公の光源氏(ひかるげんじ)の姿についてでした。

 一晩中、苦しんで詩歌を作って、尽きることの無い嘆きがあり、
 多くの年月の過去のことを振り返って思い起こすと、このように悲しいのです。 


●語注:

(以下、『新字源』は、2017年(平成二十九年)十月三十日発行の改訂新版を引用しています。)

(以下、WebサイトのURLは、ブログ上では省略しています。)

※山居(さんきよ)(小書き文字を使うと「さんきょ」):「➀山中に住む。また、その住居。②隠居する。また、隠居。」(『新字源』p.391)、ここでは、➀の意味で用いています。

※暗香(あんこう(あむかう)):「どこからともなくただよってくるよいかおり。」(『新字源』p.622)

※独処(獨處)(どくしよ)(小書き文字を使うと「どくしょ」)(独(獨)(ひと)り処(處)(お(を))る):「ひとりでいる。ひとりずまいする。」(『新字源』p.856)

※野人(やじん):「➀庶民。②かざりけがなく真心のある人。③いなかもの。礼儀を知らない粗野な人。」(『新字源』p.1404)、ここでは、③の意味で用いています。

※酔裏(醉裏)(すいり):「酔っぱらった状態にあること。」(『新字源』p.1396)

※雪梅(せつばい):「梅花色白,故稱。」(『漢語大詞典(かんごだいしてん)』(Webサイト『搜韻(そういん)』の「典故(てんこ)・詞彙(しい)」の「雪梅」の検索結果(URLは省略しています。)(アクセス日:令和二年二月十一日(火))))、つまり、「梅の花の色が白いことから名付けられた。」という意味です。ここでは、「雪のように白い梅の花。」という意味で用いています。

※春信(しゆんしん)(小書き文字を使うと「しゅんしん」):「春のおとずれ。春のたより。」(『新字源』p.613)

※残寒(殘寒)(ざんかん):「寒(かん)が明けても残る寒さ。余寒。」(Webサイト『goo国語辞書』の検索結果(URLは省略しています。)(アクセス日:令和二年二月十一日(火)))

※黄鸝(黃鸝)(こうり(くわうり)):「うぐいすの一種。こうらいうぐいす。」(『新字源』p.1590)、ここでは、「鶯(うぐいす)。」という意味で用いています。

※先生(せんせい):「➀さきに生まれる。また、その人。年上の人。②父兄。③老人で学問を教える人。転じて、教師。師匠。④学問や技芸に通じている人の敬称。」(『新字源』p.113)、ここでは、④の意味で用いています。

※逝去(せいきよ)(小書き文字を使うと「せいきょ」):「しぬ。なくなる。長逝。永眠。」(『新字源』p.1360)

※突如(とつじよ)(小書き文字を使うと「とつじょ」):「にわかに。だしぬけに。不意に。」(『新字源』p.991)

※温顔(溫顏)(おんがん(をんがん)):「やさしい顔つき。おだやかな顔つき。」(『新字源』p.786)

※双涙(雙淚)(そうるい(さうるい)):「両眼からあふれ出る涙。」(Webサイト『goo国語辞書』の「双涙」の検索結果(URLは省略しています。)(アクセス日:令和二年二月十一日(火)))

※梅信(ばいしん):「うめの花の咲き始めたたより。」(『新字源』p.667)

※芳樹(ほうじゆ(はうじゆ))(小書き文字を使うと「ほうじゅ」):「➀花の咲いた木。②樹木の美称。」(『新字源』p.1139)、ここでは、➀の意味で用いています。

※暗愁(あんしゆう(あむしう))(小書き文字を使うと「あんしゅう」):「心を暗くする悲しい物思い。」(Webサイト『goo国語辞書』の「暗愁」の検索結果(URLは省略しています。)(アクセス日:令和二年二月十一日(火)))

※落花(らつか(らくくわ))(小書き文字を使うと「らっか」):「散り落ちる花。」(『新字源』p.1168)

※篇章(へんしよう(へんしやう))(小書き文字を使うと「へんしょう」):「➀詩文の編と章。②文章。書物。」(『新字源』p.1014)、ここでは、➀の意味で用いています。

※談論(だんろん(だむろん)):「考えを論じあう。議論。」(『新字源』p.1276)

※源氏(げんじ(ぐゑんじ)):ここでは、「『源氏物語(げんじものがたり)』の主人公の光源氏(ひかるげんじ)のこと。」という意味で用いています。

※一夜(いちや):「1 日暮れから翌朝までの間。ひと晩。2 ある晩。」(Webサイト『goo国語辞書』の「一夜」の検索結果(URLは省略しています。)(アクセス日:令和二年二月十一日(火)))、ここでは、1の意味で用いています。

※苦吟(くぎん(くぎむ)):「苦心して詩・歌・俳句などを作る。」(『新字源』p.1142)

※多年(たねん):「多くの年月。」(『新字源』p.299)

※回想(囘想)(かいそう(くわいさう)):「かつて経験したことを思いめぐらすこと。過去のことをふりかえって思いおこすこと。」(Webサイト『goo国語辞書』の「回想」の検索結果(URLは省略しています。)(アクセス日:令和二年二月十一日(火)))


●解説:

 今回は、梅の香りがする山中の住居を、七言絶句の漢詩に詠んだものと、私が漢詩の会の浪速菅廟吟社でお世話になっていた先生の一人であるA先生の死を悲しんで泣く様子を、七言律詩の漢詩に詠んだ二首です。

 一首目は山の住居での少し早めの春の訪れ、それを梅と鶯(うぐいす)できちんと表現できていれば良いなと思います。七言絶句も毎回作る中で向上していければ良いなと思います。

 二首目は、A先生が亡くなられた悲しみと、先生と私との思い出を述べました。特に印象深いのは、『源氏物語(げんじものがたり)』の五十四帖を七言律詩と七言古詩で詠んだものを先生が解説した書である『漢詩で読む「源氏物語」五十四帖・賦光源氏物語詩』を頂いて、その感想をメールしてやり取りが続いたことがあったことです。先生からは更に感想に対する感謝と、私への激励を頂いて、とても嬉しかったことを思い出しています。私も持病でそのうち黄泉の国へ旅立ちますので、その時には再会して、議論の続きをしたいなと思っています。私よりも早く亡くなられたのが悲しいです。お悔やみを申し上げます。

それと同時に、これからも体調を保って頑張っていきます。普段の課題詩や季節の漢詩から離れて、私の気持ちを述べる漢詩になっています。気持ちを更にきちんと漢詩に述べられるように、工夫を重ねていきます。今は悲しくて悲しくて仕方が無いですが、前を向いて進んでいきます。


佐村 昌哉(筆名:白川 玄齋)

この記事へのコメント